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「Tちゃんはトロッコ隊長」 2008年9月 |
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小2の夏休みが終わろうとする時、 なんかとても物足りない気分だった。 プラプラ歩いていると、いつもはちょっとおっかなくて あまり話をしたことのない小5のTちゃんが 「おいツグト、あそこに行ってみるか」と声をかけてきた。 30軒ほどある三池変電所の社宅の 真ん中あたりに住んでいた頃の事だ。 Tちゃんの言う「あそこ」とは、 ゴオーッとまるで地鳴りのような音を立てている 高圧電流系の機材が集中しているあたりの事だ。 そこにやや傾斜のある30メートル程のレールを走る トロッコがあった。 日頃から、絶対そこには入っちゃいけないと 口酸っぱく言われてはいたが、 何人かの友達が密かに「トロッコに乗ったぞ」と話すのを 羨ましく聞いていた。 トロッコ隊長の異名をとるTちゃんから 僕もやっとお呼びが掛かったのだが 内心とてもオドオドしていた。 「見つかったらすごい怒られるやろね」と言う僕に 「大勢やなかけん見つからんやろ、今ごろは会社の人も見回りにこんけん心配なかと」 そう言うとTちゃんは、ほんのわずかばかりの金網と 地面の隙間から グイグイ侵入して行った。 Tちゃんに張り付くように着いて行くと、 思ってたよりひと回り大きいトロッコが待っていた。 もう互いの話は何も聞こえない。 Tちゃんは「乗れ」という合図を僕にくれるや 車両に付いていたストッパーを手早く外すと 後ろからめいっぱい押し始めた。 トロトロと動き始めるやTちゃんは勢い良く飛び乗ってきた。 Tちゃんと二人きりは一瞬 照れくさい気がしたけれど、 僕はまるで異空間へ 冒険の旅にでも出る様な爽快感に包まれ、 お蔭で夏の終わりのモヤモヤは一気に吹っ飛んだ。 その頃、僕は母に外であった事は何でも話す子どもだったけど トロッコの事だけはずっと秘密にしていた。 どんな事を話そうとも決して叱らない母だったけど この事だけはせっかく誘ってくれたTちゃんに悪い気がした。 気が付けばスリリングなトロッコ遊びも Tちゃんが引っ越してパッタリと無くなっていた。 危ない遊びだったけど、Tちゃんのしっかりとした気配りと その手腕のお蔭で誰も事故に巻き込まれること無く楽しめた。 この季節になるとふとクールなTちゃんの横顔と あの油の臭いのツンとくるトロッコを 愛おしく思い出すことがある。 | ||||||||
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